PROJECT 01

パジャマスーツ®︎
大ヒット商品〈パジャマスーツ®︎〉に見る、
AOKIが貫くお客さまファーストの姿勢と
ものづくりへのこだわりとは?

OUTLINE

2020年の11月にAOKIが発売したパジャマスーツ®は、2つの意味で業界に大きな衝撃をもたらした。1つは、「年間1万着売れたらヒット」とされるスーツカテゴリーにおいて、1年間で5万着以上を販売したということ。もう1つは、コロナ禍での外出機会の激減によりアパレル業界全体が不振にあえいでいた中で、新たな市場を生み出したということである。

その名が示すとおり、パジャマのようなリラックス感を持ちながらも、人前にも出られるきちんと感を併せ持ったパジャマスーツ®。在宅ワークを強いられる中で、リモート会議の際に何を着ればよいのかと悩んでいたビジネスパーソンに向け、〝見た目スーツ、着心地パジャマ″という、新生活様式のお客さまニーズに合わせて開発された商品である。

発売後も毎年進化を続け、コロナが落ち着いた今もなお定番商品として売れ続けているパジャマスーツ®。そもそもどんなきっかけで開発され、どんなアプローチから広く知られていったのか。どんなポイントで改良を重ね、これからどう進化していくのか。発売当初に広報を担当した比本さんと、発売後のブラッシュアップを担ってきた小出さんに話を聞いた。

MEMBER

  • 比本 佳奈
    AOKI 営業教育部
    マネジャー
    2009年入社
  • 小出 大二郎
    取締役 副社長執行役員
    AOKI商品管掌
    2022年入社

スーツ屋のAOKIだからこそ、
踏み切るべきだった道。

比本:開発当初は社内でも賛否が分かれていたと記憶しています。在宅ワークという突然の変化で着るものに困っているお客さまのニーズを満たす商品(パジャマスーツのサンプル)に対し、「お客さまには受け入れられないのでは…」「AOKIで扱うものなのか」という意見や、「チャレンジするべきだ」「お客さまも喜ぶのでは」といったさまざまな意見が出ました。その中で決め手となったのは、お客さまの声をもっとも近くで聞いている、店舗スタッフからの意見でした。
 「お客さまが求めているアイテムです。チャレンジしてみましょう」
 その声に間違いはありませんでした。発表開始直後、まずは海外の通信社に取り上げられ、そこから逆輸入された形で国内メディアからも紹介いただくようになりました。毎週何件もの取材の予定が私の手帳に書き込まれるほど、Webにもテレビにも新聞にも取り上げられ、パジャマスーツ®は一気に注目されるアイテムになりました。

小出:私がAOKIに入社したのは、パジャマスーツ®の発売から約1年半後のことです。それまでは、国内外40ほどのブランドを扱う総合アパレルメーカーや商社にて28年間、商品に携わってきました。同じファッション業界ですから、AOKIのこのトピックを真っ先に耳にしていたのは言うまでもありません。コロナ禍に対応すべく、各社なんらかの商品開発には取り組んでいました。その中でも、リアルなライフシーンに着目して、いち早く具現化した組織力には思わず舌を巻きました。ネーミングのキャッチーさも、強い印象を残します。業界の多くの人間が、同じような反応だったと思います。チャレンジングな会社だなと感じていました。

パジャマスーツ®は発売初年度には年間5万着という異例のヒット商品になった。比本さんの広報活動も当初の社外向けから、社内向けへと広がっていく。商品企画部の責任者として入社した小出さんは、パジャマスーツ®の次なる展開に着手すると同時に、ポストコロナを見据えた戦略をメンバーとともに描いていく。

時代とともに
変化するデザイン。

比本:そこからの私の仕事は、全国の店舗スタッフへの啓蒙活動でした。パジャマスーツ®の優れた機能性については、ご試着いただければお客さまにもすぐ伝わる部分が多いと思いますが、どんな想いをもとに開発されたのか、商品開発の背景を店舗へ繋ぐことも私の役割です。パジャマスーツ®が生まれた背景や企画意図などを店舗スタッフからお客さまにお伝えすることで、商品の魅力がより深く伝わることは言うまでもありません。また世の中からの評判は、お客さまが購入を検討される際の重要な要素になります。そこで、どんなメディアに取り上げられたのか、どのような点を評価いただいたのかといった情報も、タイムリーに店舗へお伝えするようにも努めました。社内外のさまざまな情報を、店舗スタッフやお客さまへ橋渡しすることが広報活動において非常に重要だと、パジャマスーツ®のヒットの裏側で改めて学びました。

小出:コロナ禍が収束に向かうという時の流れの先を読んで、次なるパジャマスーツ®に求められるものを検討する必要がありました。発売当初のままでは、家というシーンに寄りすぎているため、電車に乗りオフィスで働く格好にはそぐいません。そこでジャージ素材によるストレッチ性はそのままに、通常のスーツと変わらない襟付きのデザインとしました。
 ありがたいことにリピートするお客さまも増えてきたという動向を踏まえて、色のラインアップの拡充だけでなく、身幅のゆったりしたデザインやワンランク上の価格帯、夏場に快適に着られるやや薄手の素材など、私も含め5名のプロジェクトメンバーで話し合いながら、さまざまな展開のアイデアを出していきました。「次に買うなら、どこか新しいパジャマスーツ®がほしい」という、予測されるお客さまの購買意欲に応えるためです。
 ある程度のバリエーションは出尽くしたこともあり、現在検討を進めているのは定番化です。そのときしか買えない1着との一期一会もファッションの楽しさのひとつですが、いつお店に行っても必ずそこにあって手に入る、これがパジャマスーツ®だ、という代表格となる商品を生み出したいと考えています。

実は、2020年11月の発売時点の商品名は、「ホーム&ワークウェア」だった。ところが翌月、早くもパジャマスーツ®に変更されることになる。店舗を訪れた何人ものお客さまから「パジャマスーツはありますか?」とお声掛けがあるという、商品企画会議での報告がきっかけだ。この展開には、AOKIのものづくりに対するスタンスが凝縮されている。

変化を恐れない。
ただし軸はブレさせない。

比本:1か月という短い期間で、写真素材の取り直しやプレスリリースの作成、各部署との調整など、かなりハードな毎日が続きました。ネーミングを変更することに対し、社内外からの反応を考えると不安もありましたが、先ほど話したように好意的に受け止められ、杞憂に終わりました。
 私たちが生きているのは不透明な時代ですし、価値観も多様化しています。だからこそ、お客さまの声に耳を傾け、変化を恐れずに即対応・即改善することの重要性を学ばせてもらった気がします。どんなビジネスであれ、過去の成功体験にはしがみついてしまうものだと思うのです。ただ、現状維持は衰退しか招きません。もともとトライ&エラーやチャレンジが盛んな会社でしたが、それがパジャマスーツ®という商品を機に、より加速してきたと感じています。

小出:変化に対応する上で大切になるのは、軸を決してぶらさないことです。パジャマスーツ®の場合、見た目はスーツなのに着心地はパジャマというコンセプトは貫ぬこうと決めました。たとえば重い、硬い、伸縮性がないなどの素材を使用することはありません。そこは商品開発メンバーと常に確認しながら、ものづくりにあたっています。
 またニーズを先取りして提案していくスタンスはもちろん大切ですが、それが一方的なものではいけないと常に肝に銘じています。比本さんが話されたように、お客さまの声にどれだけ応えられるか、どれだけスピーディに踏み出せるか。そこだけでも十分に感性や創意工夫が求められますし、お客さまのニーズに繋がっていくものなのです。外から加わった私から見て、AOKIもORIHICAもこの姿勢は今後も変わることはないだろうと確信しています。