PROJECT 02

スタッフスナップ
スーツ業界初となる導入から約4年、
〈スタッフスナップ〉で拓いてきた
新たな接客のかたちとは?

OUTLINE

小売業界の販売スタッフが、自らモデルとなってコーディネートを考え、撮影した写真をコメントとともにECサイトやSNSに投稿するサービス〈スタッフスナップ〉。デジタル空間を通じた接客が可能になり、実店舗への集客にも繋がるうえ、スタッフ毎の売上貢献度を見える化できることから、個人店も含めると約3,000のブランドが活用している。

2019年にORIHICAがスーツ業界として初めて、続いて2020年にはAOKIも導入し、販売スタッフと顧客の距離を縮めるために欠かせない手段となった。今ではフォロワー数を2.6万人にまで伸ばしているスタッフもいる。だが軌道に乗るまでの道のりは平坦ではなかった。なぜ〈スタッフスナップ〉を始めたのか。そしてどのように社員たちは取り組んでいったのか。

ORIHICAでの立ち上げを担った佐分さん、AOKIでの展開を託された奥村さん、店舗スタッフの牽引役となるアンバサダーを務めた榎本さん、SNSの人気トップとなった西郷さん。この4人の証言をお届けしたい。

MEMBER

  • 佐分 真平
    ORIHICA営業サポート部
    リーダー
    2008年入社
  • 奥村 拡夫
    AOKI 販売促進・ネット通販部
    リーダー
    1995年入社
  • 榎本 光希
    AOKI 販売促進・ネット通販部
    チーフ
    2015年入社
  • 西郷 満利菜
    AOKI 販売促進・ネット通販部
    チーフアシスタント
    2014年入社

店舗の売上を
ECサイトに奪われる
というジレンマを超えて

佐分:ORIHICA全体の販売チャネルがデジタルにシフトする中で、店舗スタッフのスタイリング写真を投稿してはどうかという提案が出てきました。スタッフスナップを展開する他社では売上の拡張に成功している、という情報も得ていたのです。ORIHICAはというと、コロナ禍以前だったこともあり実店舗とECサイトの相互補完という考え方はまだ薄かった印象がありました。ECサイトに売り上げを取られたくない、1円でも多くの売上を店舗で確保したいと考えるのは無理もありません。こうした意識をいかに変えていくか。人事部の営業教育担当として、新たな考え方を店舗スタッフに浸透させていくことが私の役割でした。

なにしろ0から1を生み出す業務のため、軌道に乗せるまでは苦労の連続でした。先行してスタッフスナップに取り組んでいるトライアルメンバーの販売実績と社内認知度を、同時に高めていく必要があったのです。まずは販売スタッフに理解してもらうべく働き掛けたのですが、「店舗の業務だけで精一杯」「お客さまとの直接の触れ合いを大切にしたい」といった消極的な声が多くを占めていました。

それでも私は悲観していませんでした。なぜなら導入して間もなく、トライアルメンバーたちが楽しんでいることがひしひしと伝わってきたからです。「仕事なのに趣味のように面白い」という若手スタッフや「新鮮な体験で入社1年目を思い出した」というベテランスタッフもいました。そうした反応を見ているうちに、実店舗でもウェブでも接客の本質は変わらないんだという確信を得ていきます。こんなにイキイキとしているスタッフたちの様子をもっと知ってもらいたいーー。トライアルメンバーの情報を定期的に上層部やエリアマネジャーたち、もちろん現場にもしっかり伝えることを心掛けていきました。

佐分さんとトライアルメンバーたちの熱意によって一定の成果が出始めたのを受け、AOKIにおいてもかねてから検討してきたスタッフスナップの導入が決まった。プロジェクトを推進したのがネット通販事業部(当時)の奥村さんである。

サイズ感や着心地を
お客さまにどう伝えるのか

奥村:AOKIのECサイトを強化していくにあたり、スタッフスナップに力を入れていく方針が決まりました。苦労したのはORIHICAの佐分さんと同じく、店舗での販売がメインであるスタッフへの協力依頼と理解の促進でした。単純にプラスオンの業務になるのでやりがいとして捉えてもらうためのサポートが欠かせません。

その1つが投稿のガイドラインづくりです。たとえば「ストレッチ性がある」「透け感は低い」と表記されていても、どの程度のものなのかをお客さまはイメージできません。こうしたニュアンスやサイズ感や着心地など、通常のECサイトでは伝えきれないものをどれだけうまく表現できるかが購入へと進んでいただく鍵になります。コメントの表現方法やコーディネート、写真のアングルなど、お客さまの購入の手助けになるために投稿にあたってのガイダンスやある程度のルールをつくりました。

一方SNSについては、ルールは最低限にとどめています。「この人のコーディネートはいいな」とお客さまが感じ、ファンになっていただくほうがうまくいくだろう、自らの個性を出せたほうが発信する販売スタッフのやりがいにも繋がると考えたからです。

スタッフスナップ運用の枠組みは整えていきましたが、実店舗でのマネジメント経験が長かった私には、デジタル面のスキルに限界がありました。そう悩んでいた矢先、スタッフスナップでの個人売上を大きく伸ばすだけに留まらず、Instagramを積極的に活用してフォロワー数を増やしている店舗スタッフが現れはじめました。その方々にプロジェクトに参加してもらったほうが全国の店舗スタッフにお手本を示すことができ、ノウハウを広く共有できるに違いないと思い、協力を仰ぐべく期待を膨らませながら人選を進めていったのです。

奥村さんたちプロジェクトメンバーは、それをアンバサダー制度と名付けた。本社勤務の専任スタッフになったアンバサダーは主に〈スタッフスナップ〉やInstagramに投稿し、週末は応援販売員として都内近郊の実店舗に立つ。毎年新たなスタッフが選出されてきたが、第2期生6名のうちの1人が、榎本さんである。

2期生の自分が
成果を出さないと
3期目はない?

榎本:本社から声を掛けられたのは入社8年目の茨城県の土浦でストアマネジャーを務めているときでした。店舗での接客が大好きだったので、正直なところ戸惑いや寂しさもありました。それでも「これからの時代はECサイトと店舗が連動しないとダメだ」と心のどこかで感じていました。アンバサダー1期生の投稿を見てとてもいい取り組みだと思っていましたし、会社としての新しいチャレンジにワクワクしていました。送別会では店舗の全員が期待を込めて送り出してくれたので「みんなのためにもいい結果を出したい!」と意気込んでネット通販事業部(当時)の専任スタッフアンバサダーに就いたのです。

2023年に本社に異動となった頃は主にスタッフスナップやInstagramに投稿しながらホームページやYouTubeの撮影にも携わり、週末になると都内の店舗に販売応援に通いました。さらに2チームあるアンバサダーの片方のチームリーダーとして数値管理と分析、施策の打ち出しにも取り組むことになったのです。売上目標や投稿数の目標が設定されていたので、「とにかく数字としての結果を出し続けたい!」と1年目は必死に動き回りました。尊敬する先輩からの「実績を出さなければスタッフスナップがすぐになくなってしまうかもしれない。ずっとあると思ったらダメ」という激励のお言葉も取り組む原動力になりました。

翌年からは運営を任されるようになり、新しい施策も実施しました。数字に対して厳しく取り組んだ1年目の経験が、知識や引き出しとなって自分の中に蓄積されてきたため、店舗スタッフにノウハウを伝えたり、質問や相談にもすぐに答えたりすることができるようになりました。さまざまな業務に向き合い苦労した甲斐があったな、とつくづく思っています。

榎本さんと同時期に店舗から本社に異動し、仲間たちといい意味で競い合いながら、郡を抜く成果を上げ続けていたプロジェクトメンバーがいる。店舗時代から積極的に〈スタッフスナップ〉に取り組み、本社異動後にはInstagramの個人アカウントのフォロワーを2.6万人にまで伸ばした西郷さんである。

自信が持てずにいた私の
素直な想いを発信できる場

西郷:実は学生時代から自分に自信を持てず、入社後も「お客さまのためになることをしたいな」と思ってはいても、緊張してうまく接客できずにいました。ところがストアマネジャーから勧められた〈スタッフスナップ〉を始めてみて、人と向き合うことへの苦手意識が薄れていく自分に気付いたのです。「対面しなくても接客できるんだ」「たった1枚の写真があるおかげで、自分の想いを素直に伝えられるんだ」とどんどんのめり込んでいきました。以前とは桁違いの販売実績を出せたのをきっかけに、アンバサダーの一員に指名いただけたのです。

本社への異動後は店舗スタッフたちの投稿の質を上げるためのアドバイスを中心に活動していますが、もう一つ力を入れてきたのがInstagramでの発信強化です。インスタライブを毎月二度ほど開催し、お客さまとコミュニケーションを取りながらAOKIブランドのファン獲得を目指してきました。

何より成果に繋がったのは、Instagramの個人アカウント運用です。「AOKIにこんな可愛い商品があったなんて知らなかった」「AOKI=紳士服というイメージが覆されました」「実際にお店に行ってきました」など嬉しいお声をたくさんいただけるようになり、私個人のフォロワー数も2.6万人にまで広がりとても驚きました。

「Instagramの個人アカウントではキャラクター性を出すことが重要だよ」

プロジェクトの上司からの助言はとても参考になったと思います。日頃の体験の中から失敗したこと、些細だけど嬉しかったことなどを発信するようにしました。また言葉のチョイスも自分らしさを出すスタイルに変えたところ、フォロワーさんが大きく増えたのです。まずは私という人間に興味を持ってくださり、そしてAOKIの商品を好きになってくれた、という流れをつくることができました。

一定の成果を残してきた〈スタッフスナップ〉への取り組みだが、4人はまだまだ満足していない。現在見えている課題や今後の可能性についてどう捉えているのか。つまりはこれから参加するあなたのためにどんな体制を整え、あなたにどんなことを託したいのだろうか。

ORIHICAではデジタルスタイルナビゲータープロジェクトと呼んで、次の段階に進めています。「店舗の誰もが個人でお客さまを呼べるスタッフになろう」というゴールに向けてスキルをより高め、参加者をより増やしていく必要があります。ライセンスやインセンティブなどの制度をさらに充実させ、より活性化を図っていきたいです。(佐分)

佐分さんは営業サポート部で営業支援となる施策に幅広く携わっているため制度化しやすいのに対して、AOKIでは部署が分かれていることもありまだまだ〈スタッフスナップ〉を運用し尽くせているとは言えません。社内の部署間においても、AOKIとORIHICAにおいても、ヨコのコミュニケーションを密に取りながら活用しやすい環境を丁寧に一つひとつ、つくっていけたらと考えています。(奥村)

頑張らないと2期目で終わるかもしれないという言葉をいただきましたがどうにか継続させることができ、昨年は6期生となるアンバサダーが誕生しました。〈スタッフスナップ〉を活用すればこれだけの売上に繋がり、これだけのお客さまに喜んでいただけるんだ……と、全国の店舗スタッフに示していけるようこれまでの成果に満足せず、数字にこだわっていきます。(榎本)

スタートから5年、〈スタッフスナップ〉やSNSで発信をしている店舗スタッフは全店で約50名に留まっており、既存社員の関わりをもっと増やすための工夫が求められていると認識しています。またこれから入社していただける方々はデジタルネイティブ世代なので、私や榎本さんが逆に教えていただく立場となり、新たな刺激をもらえるのではないかと楽しみで仕方ありません。(西郷)