
ベントとは?センターベントとサイドベンツの違いや選び方を解説
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スーツのフロントには、襟の形や ボタン、ポケットなどさまざまなディテールがあるのに対し、自分では見ることができないバックスタイルでは、「ベント」が非常に重要なデザイン機能となっています。
スーツを購入する際に迷うのが「センターベント」と「サイドベンツ」のどちらを選択するか。そこで、それぞれが持つ歴史や特徴を紹介し、年代、体型、着心地、シーン別によるベントの選び方を解説します
ベントとは?
ベントとは、ジャケットの背中や両脇の裾にある切れ込みのことで、着用シーンや時代背景などによって生み出されたディテールです。代表的なものには背中の中央にあるセンターベントや、両脇にあるサイドベンツ(ベントの複数形)などがありますが、ファッショントレンドやデザインによってベントの長さは変化します。購入時には、ベントが開かないように仕付け糸でバッテンの形に縫ってありますが、着用するときには取り除きましょう。
ベントには、生地で囲まれたジャケットの腰からヒップまでの部分を解放し、動きやすくする働きがあるとともに、ベントの種類によってバックスタイルの印象を変化させる効果があるので、ベントの選択はスーツを購入する際の重要なポイントになります。
ベントの種類

ベントにはいくつかの種類があります。代表的なセンターベントやサイドベンツのほかに、フックベント、ノーベント、インバーテッド・ベントなど、それぞれ由来や特徴・機能が異なったベントがあります。
センターベント
センターベントはシングルベントとも呼ばれ、ジャケットの背中の裾中央にある切れ込みのことです。19世紀のイギリスで、貴族は乗馬する際に、細身でウエストが絞られたライディングコートやハッキングジャケットを着用していました。この動きやすさを向上させるために、裾に深めの切れ込みを入れたことから、日本のテーラーでは「馬乗り」と呼ぶこともあります。
特徴としては、動きやすく着心地が向上するとともに、正しく仕立てると裾の広がりが少なくすっきりしたスタイリッシュな印象を与えるので、年齢、性別、シーンを問わず着用できることです。
サイドベンツ
サイドベンツはダブルベントとも呼ばれ、ジャケットの両脇の裾にある切れ込みのことです。かつて騎士や軍人が剣を腰に下げる際に、ジャケットの裾が自然に開き、邪魔にならないように設けられたといわれ、日本のテーラーでは「剣吊り」と呼ぶこともあります。
特徴としては、ベントが両脇にあることで、センターベントよりもさらに動きやすくエレガントな印象を与えます。特に、ビルドアップショルダーにウエストを絞ったシェイプドラインで、かっちり仕立てたブリティッシュスタイルのスーツや、丈が長いクラシカルなスーツでは、相性のよさからサイドベンツがよく見られます。また、ポケットに手を入れる際には、センターベントと異なり裾に不自然なシワをつくることはありません。
フックベント
フックベントはセンターベントの一種で、ジャケットの背中の裾中央にある切れ込みの開き止まりがカギ型(フック形状)になっているベントのことです。フックベントは通常のジャケットやスーツ以外にも、背中のテールが長いモーニングなどの礼服でも採用されています。
特徴としては、開き止まりのステッチに見える伏せ縫いがアクセントになり、ノーマルなフックベントよりもクラシカルな印象が強くなることと、ベントの強度が増したことで、強い力で引っ張られても裂けにくいことです。センターベントの一種であるフックベントは、20世紀半ばにアメリカの若者の間で大流行したアイビールックの特徴的なディテールでしたが、ノーマルのセンターベントを採用したブランドもあります。
ノーベント
ノーベントはその名のとおりジャケットの背中の裾部分に切れ込みがないタイプで、ベントレスとも呼ばれます。
かつてフォーマルスーツやタキシードにおいては、シルエットの美しさを重視し、動きの少ない場面での着用を前提としてノーベントが基本とされていました。しかし、近年ではフォーマルシーンにおいても、動きやすさやデザイン性からベントのあるブラックスーツも多く見られるようになっています。
ノーベントの最大の特徴はヒップが隠れ裾のラインが乱れないので、バックスタイルが美しくエレガントになることです。ゆったりしたボックスタイプのジャケットやダブルのスーツとは相性がよい反面、スタイリッシュな細身のスーツやジャケットの場合には腰回りが窮屈になるのであまり適していません。
インバーテッド・ベント
インバーテッド・ベントは、ジャケットの背中の裾中央に設けられたセンターベントの一種です。ほかのベントと異なるのは、切れ込みの代わりにプリーツ仕様にしていることで、トレンチコートやスカートなどに多く採用されているディテールです。プリーツのひだ山が外側ではなく内側に突き合せとなっているため、インバーテッド(逆にした)・プリーツと呼ばれます。
特徴としては、切れ込みがないのでノーベントと同様にヒップは隠れ、風が入りにくくなりますが、同時にプリーツによって動きやすさも確保しています。インバーテッド・ベントは生地を多く使用するため、贅沢感やクラシカルなイメージがあるのが特徴です。
ベントのメリット

ベントにはデザイン的なメリットのほかに機能的なメリットもありますが、ベントの種類によってメリットは異なります。そこで、代表的なセンターベントとサイドベンツのメリットについて解説します。
ベントが動きを楽にする
センターベントは、ジャケットやスーツを着て動いたときに背中の切れ込みが左右に開いて動きを楽にするのに対し、サイドベンツは左右のベントに挟まれた背中のパネル部分が動きを妨げずスムーズに体を動かせるのが特徴です。
そのため、2つのベントで対応するサイドベンツの方が動きに対する許容量が大きく、シルエットへの影響は少ないといえます。
ベントがシワを防止する
ジャケットやスーツを着て長時間座ると、ノーベントの場合には背中の裾部分に座りジワができやすくなりますが、ベントがあると切れ込み部分が開き、背中の裾部分の可動域が広がることでシワができにくくなります。
また、ズボンのポケットに手を入れる癖のある人がノーベントのジャケットを着ていると、裾がめくれ上がりシワができやすくなりますが、サイドベンツの場合には切れ込みから手を入れることで裾のめくり上がりがないため、シワを防止できます。
ベントが印象をよくする
細身体型の方はどんなデザインでもスタイリッシュに着こなせますが、ヒップが大きい方や、がっしりとした体型の方がスーツを着ると、後ろから見たシルエットがスッキリ場合があります 。
特に、絞ったブリティッシュスタイルのようにウエストラインを強調するデザインの場合、ベントがなければヒップ部分が突っ張るので窮屈なだけでなく、サイズが合っていないようなやぼったい印象を与えてしまいます。
しかし、ベントがあることでヒップ部分の体型をカバーし、着心地が改善するとともに、バックスタイルをすっきりした印象に変えることが可能です。 また、センターベントは若々しいシャープな印象が、サイドベンツには威厳のあるエレガントな印象があるため、自分が目指すスタイルに合わせて選択しましょう。
センターベントとサイドベンツの選び方

スーツを購入するときに、センターベントとサイドベンツのどちらにするか迷った場合には、デザイン、年齢、体型、着心地、ライフシーンの5つのポイントをチェックし選択するとよいでしょう。
ベントとデザイン
ベントの種類を選ぶ場合には、スーツの基本的なスタイルの違いや特徴を理解する必要があります。そこで、ブリティッシュスタイル、イタリアンスタイル、アメリカンスタイルという3つの代表的なスタイルと、ベントとの相性について解説します。
ブリティッシュスタイルとベント
打ち込みがしっかりしたハリ・コシの強い生地に厚めのパッドや毛芯などを使用し、体のラインに沿った構築的なパターンで仕立てたブリティッシュスタイルのスーツは、重厚で立体感のあるデザインが特徴です
仕立てがかっちりしているので、可動域が広くエレガントで威厳のあるサイドベンツとはとても相性がよく、ブリティッシュスタイルのスーツにはサイドベンツが主に採用されています。
イタリアンスタイルとベント
寒いイギリスで誕生したブリティッシュスタイルに対し、比較的温暖な気候のイタリアでは、軽くソフトな生地にパッドは極力薄くし、体のラインを生かしたナチュラルなシルエットに仕立てられました。
そんなイタリアンスタイルのスーツは、軽やかでファッショナブルなデザインが特徴です。イタリアンスタイルでは細身で着丈が短めのジャケットが多いため、シャープでスタイリッシュなセンターベントが非常に相性がよく、主に採用されています。
アメリカンスタイルとベント
イギリスやイタリアと比べ歴史の浅いアメリカで誕生したアメリカンスタイルは、ブリティッシュスタイルをベースとしながらも、大柄な人にも対応できるようにウエストの絞りが少ないゆったりしたボックスシルエットが特徴です。また、手間のかかるディテールは省略し効率的に生産できる仕立てとなっています。
そのため、重厚なサイドベンツよりも仕立てが簡単でスポーティなイメージのセンターベントが多く採用され、中でも多少乱暴に扱っても裂けにくいフックベントが好まれています。/p>
ベントと年齢
フレッシュな新入社員と、キャリアを重ねて指導的立場になった管理職者では、求められるイメージは同じではありません。そこで、おすすめのベントを年代別に紹介します。
10代・20代に適したベント
この年代は、年相応の軽快でフレッシュなイメージが特徴的なベントを選ぶとよいです。また、10代や20代の新入社員はスーツの保有数が少なくどんなシーンでも対応できる汎用性が重要なので、センターベントがもっともおすすめのベントです。ただし、がっしりとした体型の方やふくよかな体型の人にはジャストフィットのサイズではなく、やや大きめのサイズがよいでしょう。
30代に適したベント
働き盛りの30代は、部下もできワンランク上のポジションを任される年代でもあるので、センターベントだけでなくサイドベンツも選択肢の一つになります。近年では、シルエットが細身のスーツを着用するビジネスマンが多く、センターベントのスーツが豊富です。そのため、流行を取り入れつつシンプルでありながら美しいシルエットを演出できるセンターベントのスーツをチョイスするのもよいでしょう。また、管理職の道をスタートさせた人には優雅さや品格も演出できるサイドベンツもおすすめです。
40代以上に適したベント
一般的には、40代になると重要なポジションを任される、あるいは役員になる方もいるでしょう。このような年代に対しては、フレッシュさよりも信頼感や威厳が求められます。また、引き締まった身体の10代・20代とは異なり、体型の変化にも対応する必要が出てくるので、エレガントで可動領域の広いサイドベンツがおすすめです
ベントと体型
ベントは体型によっても相性があるので、高身長または細身の体型、標準的な体型、がっしり体型の3つのグループに分けて解説します。
高身長または細身の体型に適したベント
縦に長くスラっとした体型を生かしたスタイリッシュな印象を目指すのであれば、迷わずセンターベントを選びましょう。シンプルで爽やかな後ろ姿が、周囲の人に若々しくスポーティな印象を与えてくれるでしょう。
標準的な体型に適したベント
標準的な体型の方は、センターベントとサイドベンツのどちらも選択可能なので、好みのスタイル、年齢、会社のポジション、シーンなどに合わせて選択するとよいでしょう。ポイントはジャストサイズを選ぶことです。
がっしり型に適したベント
肩幅が広く厚い胸板のがっしり体型の方や、ふくよかな体型の方は、スリムなシルエットのスーツよりも動きやすさを重視したベントを使用したスーツを推奨します。具体的には、体のサイズに合わせて立体的に仕立てたブリティッシュスタイルのスーツや、体をゆったり包み込むアメリカンスタイルのスーツが適しています。
ブリティッシュスタイルの場合はサイドベンツ、アメリカンスタイルの場合はセンターベントがおすすめです。
ベントと着心地
ベントは見た目の印象が異なるだけでなく、着心地にも影響があるので、スーツを選ぶ際に着心地を重要視する人は、ベントと着心地の関係をよく理解しましょう。
適度なフィット感のある着心地が好みの人にはセンターベント
センターベントは、切れ込みが1カ所だけなので動いたときの可動域がサイドベンツよりも狭い代わりに、適度なフィット感を与えてくれます。また、体の動きが外側に現れやすいので、力強さや躍動感のある印象を与える効果があります。
ゆったりした着心地が好みの人にはサイドベンツ
可動域がセンターベントよりも広いサイドベンツは、動いたときでも窮屈感はなく、ゆったりした着心地を与えてくれます。また、センターベントとは逆に体の動きが外側に現れにくいので、エレガントな印象を与える効果があります。
ベントとライフシーン
ベントはジャケットやスーツを着るシーンによっても、適しているベント、避けた方 ほうがよいベントがあるので注意が必要です
デイリーシーン
日常からカジュアルシーンであれば、スタイリッシュで動きやすいセンターベントを選ぶとあらゆるシーンでも活躍しやすく重宝します。ただし、地位のある人や年齢の高い人などは、サイドベンツのカジュアルジャケットも威圧感が少なくてオシャレです。
ビジネスシーン
ビジネスシーンの定番はセンターベントといってよいでしょう。シンプルでスタイリッシュなセンターベントは、ビジネスシーンだけでなくビジネスカジュアルや結婚式などのフォーマルシーンにも対応できるのでおすすめです。ただし、会社内のポジションや年齢によってはサイドベンツを選択した方がよいケースもあります。
フォーマルシーン
フォーマルシーンでは礼服が主流なので、動きやすさなどを考慮する必要がないエレガントでシルエットが美しいノーベントが基本になります。
ベントは自分が大切にしているポイントで選ぶ
ここまで、ベントの役割・種類・特徴、およびセンターベントとサイドベンツの選び方について詳しく解説してきましたが、ベントを選ぶときには自分が何を重要視しているかを明確にすることが重要です。
例えば、ファッション性を重要視するのであれば、好みのスーツスタイルや体型に合ったベントを選び、取引先や社内の好感度を重要視するのであれば、年齢やシーンに合ったベントを選びましょう。また、新入社員などスーツ初心者の場合には、対応できるシーンが広いセンターベントがおすすめです。
自分に合ったスーツを見つけるために、いろいろな場面を想像しながら試着するのは心地よい時間になるはずです。本記事を参考に、楽しみながら最適なベントを見つけてください。