「なんとなく不調...」それ、夏の冷房ストレスかも。医師が教える、働く女性の冷え対策

「なんとなく不調...」それ、夏の"冷房ストレス"かも。医師が教える、働く女性の冷え対策

2025.06.19

  • お悩み

エアコンの風にさらされていると、なんだか身体がだるい。

肩こり、頭痛、集中力の低下。生理もつらくなる気がする......。

実はそれ、「夏の冷房ストレス」かもしれません。

昨年は観測史上最高の猛暑、そして今年も厳しい暑さが予想されています。

冷房なしでは過ごせない季節だからこそ、"冷えすぎ"による不調への理解と対策が重要です。

今回は、産婦人科専門医として女性のヘルスケアに取り組み、日々の女性の悩みに寄り添った診療をおこなっている神谷町WGレディースクリニック院長の尾西芳子先生に、「夏の冷えがもたらす身体とメンタルへの影響」と「職場でできる効果的な対策」、「働く女性の服装と冷えの関係」について伺いました。

夏でも冷えやすい女性の体には"理由"がある

夏でも冷えやすい女性の体には理由がある

――なぜ女性は冷えやすい(冷えに悩まされやすい)のでしょうか?

尾西:女性が冷えやすい一番の理由は、男性と比べて脂肪が多く、熱を発生させる筋肉が少ないというところです。脂肪は一度冷えると、その状態を保つ性質があるため、冷房が効いているような涼しい場所ではより体が冷えやすくなってしまいます。

加えて女性の身体は、生理周期によって冷えやすくなる時期があります。

なかでも、生理開始の4〜5日前の黄体期は、ホルモンの影響で体がむくみやすくなります。これは、黄体ホルモンの分泌が活発になり、体内に水分が溜まりやすくなるためです。むくみは体内に余分な水分が溜まっている状態であり、水分自体が冷えやすいため、これが体の冷えに繋がります。

その他にも排卵期の約2週間は体温が高めになり、生理が始まると体温が下がるため、体感的にゾクゾクとした悪寒を感じる方も少なくありません。このような時期は特に体が冷えやすい状態にあると言えるでしょう。

さらに、女性はこれらの時期以外でも、女性ホルモンのバランスが崩れると自律神経が影響を受け、血管が収縮し、むくみを引き起こすことで、冷えやすくなることもあります。

女性の服装スタイルも、体の冷えに関わってきます。

下着やストッキングによる体の締め付けが血行不良を引き起こし、冷えに繋がることがあります。

また、冷え対策としては、手首・足首・首の「三首」を温めることが、重量なポイントですが、夏場はこれらの部分が露出している服装を選んでしまう傾向があります。このように、身体のメカニズムだけではなく、日々の服装も女性の冷えに複合的に影響していると考えられます。

――夏の冷房による冷えによって引き起こされる不調やリスクはありますか?

尾西:夏の冷房が強すぎると、「冷房病※」と呼ばれる体調不良を引き起こすことがあります。これは、屋外の暑さと屋内の冷房との寒暖差が主な原因です。この大きな温度差は自律神経が乱れやすく、結果として熱中症にかかりやすくなるリスクも高まります。

また女性は、冷えによって生理痛が悪化し、血行不良が深刻化することもあります。血行が悪くなると筋肉が収縮してしまうため、肩こりや頭痛といった症状も現れやすくなります。実際に、こうした冷房による冷えの不調で医療機関を受診する人も少なくはありません。「冷えて生理痛がひどい」「頭痛や肩こりがつらい」といった悩みが最も多く、中には体調不良で仕事を早退する人もいるほどです。夏場であっても、体を温める漢方などが処方されるケースが多くなっています。

※冷房病とは、冷房による体の冷えや、それに伴う肩こり・だるさ・頭痛などの不調の俗称です。

集中力ダウン、気分の落ち込み......"冷え"が働き方に与える影響

集中力ダウン、気分の落ち込み......冷えが働き方に与える影響

――冷えによる不調で、「仕事が手につかない」と感じることは実際にあるのでしょうか?

尾西:冷えが原因で、肩こりや頭痛で頭が働かない、仕事のやる気が落ちることは大いにあると思います。それに合わせて生理痛もひどくなってくると、仕事への影響はすごく大きいのではないでしょうか。頭痛、肩こり、生理痛といった、痛みはメンタヘルスの不調の原因にもなります。

――冷えは経済にも影響しているのでしょうか?

尾西:冷えがメンタルヘルスに影響を与えることもありますし、それによって会社としての生産性が下がれば、やはり経済的な損失にもつながると思います。

冷えだけに限らずですが、女性特有の健康課題(生理、更年期)による経済損失は、日本社会全体で年間3.4兆円にものぼると経済産業省が試算を出しています。それを考えても、かなり大きな影響があるのではないでしょうか。

――こうした不調があると、会社側の制度や配慮も求められてきそうですね。

尾西:そうですよね。例えば社内の冷房の温度をあげることで電気代が浮いて、みんなもウィンウィンになりいいと思うのですが。まだまだ企業全体では一般的に男性管理職が多いので、オフィスの温度が男性優位になっているのではないかと思います。

冷房で不調にならないために。尾西先生が教える"冷えすぎ"対策のポイント

オフィスでの冷房は、夏の快適さと同時に「冷え」による不調の原因にもなりがちです。気づかないうちに体が冷え、頭痛やだるさを感じることも。そこで、尾西先生に、日々の中で実践しやすく、冷房と上手に付き合うための"冷えすぎ"対策のポイントを伺いました。

冷房で不調にならないために。尾西先生が教える冷えすぎ対策のポイント

――日々の中で実践しやすい基本的な「冷え対策」があれば教えてください。

尾西:冷え対策のポイントは、「首」「手首」「足首」の3つの首を温めることです。特に「首」を温めることは重要で、ここを温めることで手先や足先の冷えを防ぎ、頭痛の予防にも繋がります。 夏でもタートルネックのトップスを選んだり、首元が詰まったデザインの服やスカーフ、ネックウォーマーを活用したりするのがおすすめです。

――オフィスですぐできる工夫はありますか?

尾西:冷えを感じる前に先手を打つことが大切です。そのためには、冷房の風に直接当たらないように気を付けること。冷房の風に直接当たり続けると、体はどんどん冷えてしまうので、風向きを調節してみましょう。

また、「まだ手は温かいな」と感じていても、肩や二の腕にあたる冷房の風が冷たく感じたら、それは冷え対策が必要なサインです。羽織ものや小物でこまめに体感温度を調整しましょう。中でも、カーディガンよりも、襟があり手首までしっかり覆うジャケットは、首元を温められ、さらに着用していない時には、膝掛けとしても使えるため特におすすめです。また、レッグウォーマーやアームウォーマーなども手軽に取り入れられるアイテムです。

――食事など、体の内側から温める対策もあるのでしょうか?

尾西:もちろん、体を温める食材を摂ることも重要です。ランチには、体を温めるお味噌汁をプラスしたり、乾燥ショウガなどをお茶に入れたりするのも良いでしょう。他にも根菜類など、体を温める「温系」の食べ物を意識して摂るのもおすすめです。

また、熱を生み出すためには筋肉が必要です。その筋肉の材料となるタンパク質をしっかり摂りましょう。おにぎりだけで済ませず、肉や魚、大豆製品などを意識して食事に取り入れてください。タンパク質はホルモンの材料ともなり、自律神経の乱れや気分の落ち込み予防にも繋がります。

最近は、朝ごはんを食べない方も増えてきていますが、「朝の糖質」を抜くと、体が冷えやすくなる可能性があります。糖質はエネルギーの源であり、熱を作り出すために不可欠です。糖質オフを意識している方も、朝は何かしら糖質を摂ることを心がけると良いでしょう。

――なかなか冷えが改善しないとき、プラスアルファの対策として何かおすすめはありますか?

尾西:どこでもできる対策として、「足の体操」がおすすめです。オフィスで体が冷えてしまい、すぐに温かい飲み物を買いに行けないような場合は、足首を回したり、指を動かしたりと座ったままできる体操で、自分で熱を作り出すのも一つの方法です。

また、冷えが特につらい場合は、夏でもカイロを活用するのは有効で、腰やお腹に貼るのがおすすめです。それでも冷えがひどい場合は、椅子に敷くマットをヒーター付きのものにすると良いでしょう。

具体的な対策以外に意識してほしいのが、暑い外から帰ってきたときに、いきなり冷たいものを飲まないこと。冷たいものを一気に飲むと、内臓から体を冷やしてしまいます。まずは汗を拭いて、弱冷房の部屋などで少し体を慣らしてから、冷房の効いた部屋へ移動し、過度に冷たいものを飲むことは避けるようにしましょう。

――最後に、冷えに悩む働く女性に向けてメッセージをお願いします。

尾西:オフィスでは冷房の温度を変えられなかったり、席の移動が難しかったりと、なかなか環境を調整しづらいこともあるかと思います。周囲への気配りももちろん大切ですが、何よりもまずご自身の身体をいちばんに大切にしてほしいです。

服装や食事でうまく工夫したりしながら、ご自身を大切にする時間を確保しつつ、この夏も健やかにお仕事を乗り切っていただけたらと思います。