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開発秘話

大ヒット「パジャマスーツ」の進化と最新秋冬モデルの魅力に迫る:前編

在宅勤務が急速に広がった2020年。"パジャマのようにリラックスできるのに、きちんと見える"という新発想で一大ブームを巻き起こした「パジャマスーツ」。誕生から5年を経た今も、その人気は衰えることなく、多くのビジネスパーソンに愛されつづけています。そして2025年、シリーズはさらなる進化を遂げ、新たな秋冬モデルとして登場しました。その開発の裏側をAOKI商品戦略企画メンズ企画担当の神作満治さんに伺いました。

1. "ホーム&ワークウェア"から始まった新定番

パジャマスーツが誕生したのは、コロナ禍で働き方が大きく変化した2020年11月。発売直後から話題を呼び、翌年には海外通信社の記事で紹介されたことをきっかけに、一気に注目度がアップ。そこから売り上げは右肩上がりに伸び続け、日経MJ賞を受賞するなど、名実ともにAOKIを代表するヒット商品となりました。
2025年9月時点での累計販売数は78万着を突破。神作さんは、その人気の理由を次のように分析します。
「働き方改革やリモートワークの浸透など、生活そのものが変化した中で、パジャマスーツは自然に人々の暮らしに溶け込みました。『家でも外でも違和感なく着られる服』として定着したことが大きいと思います」

いまや単なるヒット商品を超え、"ビジネスウェアの常識"そのものを塗り替える存在になりつつあります。

2. スーツ専門店だからこそ生まれた「きちんと感」

AOKIが大切にしているのは、「快適さ」だけを追求しないこと。神作さんは、スーツ専門店としての"きちんと感"を、必ずデザインに宿すことを意識していると言います。
「パジャマ=楽という前提はありますが、快適さだけに流されるとスーツの魅力が失われてしまいます。ファッションとしての美しさと機能性に、仕立ての奥深さを融合させることを大切にしています」

こうした哲学のもと誕生した2025年秋冬モデルは、まさに完成度の高い一着に仕上がりました。キャッチコピーは「見た目スーツ、着心地パジャマ」
見た目と着心地のギャップが、着る人に驚きをもたらします。

このクオリティーを叶えたのが、徹底した素材開発です。
「パジャマスーツのメイン素材であるジャージは、布帛に比べて扱いが難しい生地です。ミシンがかけづらく、伸縮性があるためサイズ感にもばらつきが出やすい。そこで、ジャージでありながら縫いやすい新素材の開発に着手しました」

試し縫いを繰り返し、最も安定した仕上がりが得られる生地を選定。自宅で洗っても縮みにくく、風合いを保つことにもこだわり、素材メーカーと共同で「物性の安定化」に力を注ぎました。ドライクリーニングに出さずとも美しさを保てる――それがAOKIの理想とする"毎日使えるスーツ"の条件です。

3. 進化する素材と品質を支える信頼関係

どのような工夫が施されているのか、さらに詳しく神作さんに聞きました。

Q 素材開発で重視した点を教えていただけますか?

「鍵を握るのは、"組成"です。生地づくりは非常に繊細な工程の積み重ねです。たとえば"縮み"ひとつ取っても、素材の組み合わせで結果がまったく違ってきます。綿やポリエステル、ナイロンなどをバランスよく混ぜ合わせることで、縮みにくく、肌触りがよく、シルエットもきれいに出るよう設計しています。ただし、素材が複雑になればなるほどデータ管理や検証は難しくなります。素材メーカーと綿密なやり取りを重ね、最適な配合を探りながら、理想の風合いを追求しました。伸縮性の高いジャージ素材をスーツの形に仕立てるには、高度な縫製技術も欠かせません。お客様が求めているのは、"簡単に洗えて、着心地が良く、きちんと見える"スーツ。その期待に応えるため、見えない部分でも細かい試行錯誤を繰り返して完成させました」

Q ジャージ素材の課題である毛玉対策についても教えてください。

「毛玉を防ぐには、繊維の組み合わせが重要です。硬い繊維だけで構成すれば確かに毛玉はできにくいものの、風合いや着心地が損なわれる。そこで、複数の素材をミックスし、見た目の上質感と滑らかさを両立しました。さらに物性の安定した素材を採用することで、洗濯や着用による品質変化を最小限に抑えています。こうした商品の品質を支えているのが、AOKIが長年にわたり築いてきた工場との信頼関係です。スーツは工程が多く、縫製も緻密です。AOKIは長年スーツ専門店として培った信頼のもと、工場の皆さんと"良いものをつくる"という思いを共有できている。それが、どんな難しい素材でも前向きに取り組める原動力になっています」

4. 細部に宿る"見えないこだわり"

Q デザイン面でのこだわりについても教えてください。

「今季のジャケットデザインは一見シンプルながら、内部には数々の工夫が隠れています。「パジャマスーツ プレミアム」に関しては、構造面をアップデート。その象徴が新たに開発した内側の腰ポケットです。やや大きめの設計で収納力を高めながら、使いやすさに配慮しました。裏地のない仕様では通常ステッチが表に響いてしまいますが、特殊な縫製技法を採用し、表面をすっきりと仕上げています」

Q 特殊な縫製技法とはどのようなものですか?

「封筒を貼るように仕立てることで、外側に縫い目が出ず、美しさと強度を両立できます。工程が増え、職人の手間もかかりますが、"見えない部分こそ手を抜かない"――それがAOKIのものづくりの原点です」

Q パンツにも驚きの工夫が施されているそうですね?

「パンツのクリースラインの裏側には、厚手の生地でも折り目が消えにくくなる樹脂加工を施しました。高温でプレスすると合繊が溶けたり、色が変わるリスクがあります。そこで、裏側に熱で定着する樹脂を仕込むことで、美しいセンタークリースをキープできるようにしました。ご家庭でのアイロン掛けでも線がきれいに決まります」

5. 端正なシルエットと"スーツ見え"の追求

そんなこだわりが詰まった今季秋冬モデルのテーマは「スーツ見え」。"ジャージ素材を使いながらも、きれいなシルエットをつくること"を目指し、パターン設計についても徹底的に見直しました
「シルエット設計において重視したのは、肩やバスト、ウエスト、袖幅といった各部位のバランスです。オーバーサイズの流行が続く中で、AOKIが目指したのはスーツ本来の上品さを損なわない、適度なサイズ感。肩の落ちたデザインではなく、構築的で凛としたラインを意識しました」と神作さん。
パンツも立った時に脚がまっすぐ見えるよう、パターンを細かく調整。素材の伸縮性に頼らず、どの角度から見ても整って見える。そこにスーツ専門店としての矜持があります。

こうした細部の調整により、パジャマスーツでありながら"きちんと感"をしっかりと保つことに成功。加えて、先ほど紹介した"折り目が取れにくい特殊な加工"を施すことで、美しいセンタークリースをキープ。ご家庭でのアイロン掛けも容易になり、メンテナンス性も高めています。

快適さを追求しながらも、ビジネスウェアとしての品格を失わず、カジュアルシーンにも対応できる。"見た目スーツ、着心地パジャマ"というキャッチコピーには,AOKIの技術と情熱が凝縮されていることがよくわかります。この秋冬の新モデルは,多くの人の手とこだわりによって磨かれた、AOKIの真骨頂ともいえる一着なのです。

後編へ続く...

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